どうしてテレビを見せないでというようになったのか 5

2019/04/02 (Tue)
相変わらず、長い話になっていますが、どうしても書いておきたいことなので続けます。ひとつ書き忘れていたのですが、勉強しているうちに分かったことがあったんです。
ある日の研修会、テレビのことで質問しただけでどうしてあんなに感情的に止められて
しまったのか、どうしてマイクを取り上げられるということにまでなったのか。
自閉症は生まれながらというバイブルを大切にしてきた児童精神科、そこへ小児科医の中で
テレビが自閉症の原因となりうるという人たちが出てきて(例えば、片岡直樹先生)、
大論争になっていたのです。
それぞれの学会でも壮絶な論戦が繰り広げられ、
そのときのことがトラウマになっているとおっしゃる先生もおられるほどです。
そんなこととはつゆ知らず、まさに児童精神科医の前で
『テレビ』という言葉を発してしまった私。。。
私もその時のことが少しばかりトラウマになり(というより、児童精神科と付き合わないことには
仕事がやりづらいので)対外的にはあまり『テレビ』という言葉は使わず、
また、自閉症の生まれながらの特性に合わせた環境調整や学習方法を提示するというのが
当時の療育の中心的考え方だったと思うので(例えばTEACCH Program)、
治療の仕方によってはかなり自閉性の低減が図れるのでは(診断基準から外れる子もいるはず)
という私の考えもほぼ、外には出さず、となっていたわけです。
それが、前回ご紹介した2011年のNATUREの論文によって、
私を覆っていた半透明の膜のようなものに風穴が開きました。
『Autism counts(自閉症の数)』というタイトルには、
『診断基準の変更や認知されることが多くなったということだけでは自閉症増加の
説明にはならない。科学者たちはその他の理由を探すことに苦心している。』
というコメントが付いていました。
米国疾病予防管理センター(CDC)によると自閉症と診断される子どもの数は21世紀の初めの
10年で爆発的に増えた( sky rocket という単語で表現されていました。)とのこと。
著者は20世紀からの自閉症に関する研究を洗い直し、その数を経時的に示す(図1)とともに、
その増加の原因を洗い直してみました(図2)。
図1の左端、1975年には5000人に一人とされた自閉症児の数が、2009年には110人に一人と
なっています。まさにsky rocketです。(その後の調査でも伸び続けている!)

どうしてそんなに増加しているのか、Bearmanという社会学者がカルフォルニア州の
500万人の出生の記録と州の発達支援部門が把握している2万人のデータを用いて
分析したことを紹介しています。
図2を見てみると、25%は診断基準の変更によるもの、
社会性の発達の問題を持ちながらも昔は知的障害のみ診断されていた人たちが今は、
自閉症と診断されるようになった、
15%は自閉症という言葉が世の中に浸透して、自閉症だと認知されることが増えた・・・
フムフム、ここまではかつて研修会などで、私の質問に講師が答えてくれた通り、
10%は親の高齢化によるもの、
でも、でも、な~んと48%は理由がわからないというのです。

この部分はどう考えても時代とともに自閉症が増えている、その時代背景にある
環境的要因によって増えているとしか考えられないとのことです。
この研究の中では48%が何によるものかまでは明白にされませんでした。
しかし、自閉症が生まれながらか否かで論争するのはもう不毛で、こんなに急激に
増えているのだから原因解明を早急にし、対策を立てるべきだとの結論でした。
まって、Spatial clustering (特殊な集積)とされた、4%は何?
Bearmanによると一部の地域で発生率が異常に高かった、
かのハリウッドで、他の地域の発生率の4倍にも達したというのです。
1959年の事故(サンタスザンナの放射能汚染)の影響などを考える人もいたようですが、
水道水は隣のロスアンジェルスと共有しており水質汚染による発生率の上昇はないもの
とされました。
<ここからは私の考え>
時代とともに子どもたちの環境の中に入り込んだもの、
そして、ハリウッドで他の地域よりも多く入り込んでいるもの、
そこに謎を解く重大な鍵が隠されているような気がする、、、
そうです。ハリウッドと言えば、映画の製作会社やテレビ局がひしめく映像のメッカなのです。
多くの住人がそのようなところで働いています。
もしかしたら自宅でも、長い時間、映像を見るかもしれない、
あるいは、そのような仕事をしている人たちは、子どもたちが長時間視聴することに
抵抗が無いかもしれない・・・
私の中にずっとくすぶっていた2つのテーマ
テレビをはじめとするメディア視聴の子どもたちへの影響
自閉症の発症原因(あるいは増加の理由)
が、一気に一つのものとして私の中で繋がって見えてきたました。
そして、周りの(専門家たちの)目を気にしないで発信をしていかなければという使命感
みたいなものもふつふつと湧いてきました。
( まだ続きます、、、 )
どうしてテレビを見せないでというようになったのか 4

2019/03/17 (Sun)
久しぶりに小児を対象とする仕事に戻った私は、この分野の最先端を知りたいと思い頑張って2~3年は研修会などに参加しましたが、
発達障害というものが世の中から注目されているにもかかわらず内容はいまいち、
もう自分で勉強するしかないなという気分になってきました。
① 自閉症をはじめとする発達障害の原因と障害機序について深く理解したい
そしてそれを治療に活かしたい
② 小さい子ども達に対するテレビ等、メディアの影響についてきちんと説明できるようになりたい
というのが私の勉強の目的
1990年代に開発、利用されるようになったf-MRIという機械
人間が何らかの活動をしている時にどのように脳が働いているのかを画像として見せてくれます。
それまで同じ目的で使用されていたPETやSPECTに比べ、画像の解析度が勝り、
多くの研究機関等で使用されるようになっていきましたが、2000年ごろからは自閉性障害をはじめ
とする発達障害の人たちの脳の使い方の特徴を知ろうとする研究も盛んになっていました。
これは私にとっては渡りに船、
研究対象となったのは比較的認知機能が高く、また、年齢も思春期以降の若い世代の人たちが
多かったのですが、その人たちが使いにくい、あるいはあまり使わない脳の部位と行動や思考の
特性は私が予想していた通り、いやそれ以上にピッタリ一致、
当たり前といえば当たり前だけれども、
やっぱりそうなんだ、
生まれながらに何かが違うなどと呑気なことを言っているだけでは治療に結び付くはずがない。
子どもや親に寄り添うのは当たり前、
きちんとした治療の方略を持たなければ、医療でやる意味が無いのです。
私はこの職場に来る前は成人の脳損傷(頭部外傷や、脳卒中、脳の変性疾患等)の人たちの
ことばや高次脳機能の治療をしていました。
この職場にはf-MRIはないけれど症状を見ればどの部位の発達が未成熟かがおよそわかります。
脳のどこの機能が不十分でどこは比較的良好に機能しているのか、、、
小児の治療を考えるときにも脳損傷例の治療と同じように考えればいいんだ、、、
こんなシンプルなことにやっと合点がいって、なんか仕事がとても楽しくなって、
でも脳損傷の治療と発達障害の治療、忘れてはならない違いがある、
大人は一度獲得した機能が使えない、使った経験の記憶はあるし(例えば病前は普通に話して
いた)健康な部分の脳の機能は十分にある(例えば、話せないけれども漢字は書ける)、
しかし小児はまだその機能を使ったことが無い、
それを使うことがどのようなことなのかわかりづらいし、
比較的正常に育っている脳の部位もまだまだ未熟。
しかし、損傷を受けた脳の部位はその機能を取り戻すことはないが、
小児の脳は発達が不全なだけで生きている。問題の部位も発達を取り戻す可能性がある。
こんなことを考えながら、それまで難しさを感じていたことばを未獲得の子どもや、
質問されるとどうしてもエコラリア(オウム返し)で応答してしまう子どもの治療プログラムを
作り、手ごたえが徐々に大きくなるのを感じるようになっていきました。
私が小児の世界に戻って10年経とうとするころには発達障害を持つ人たちの脳の機能に
ついてのReview(総論)も出されるようになり( 例、Bachevalier and Loveland, The orbitofrontal-amygdala circuit and self-regulation or social-emotional behavior in autism, Neuroscience & Biobehavioral Reviews, Vol.30, 2006 )
私もどんなに重度の子どもさんが来ても、問題行動の多い子どもさんが来ても何かできるはず
という覚悟と自信みたいなものができてきました。
しかしながら脳機能発達のアンバランスさのおおもとの原因についてははっきりしないまま・・・
ゲノム研究が盛んになる中で、自閉症の遺伝しが見つかったとかのニュースも何度か耳に
しましたが、決定打とはならず
予防注射の中の微量の水銀が原因と騒がれ水銀が取り除かれても自閉症の発生率は変わらず、
結局、『生まれながらの特性』という神話のような言葉が世の中の主流で、
それに疑問を投げかけることさえもタブー視され続けました。
私は同業の人たちとは付かず離れず、研修や学会に積極的に参加するよりも自分でいろいろな
論文を探しながら自分がしていることの裏付けをしたり、新たな発想を得たりしながらそれからの
数年間は対外的には静かに、でも、自分の臨床は楽しく、続けていました。
それから、テレビのことは、それも対外的には静かに、臨床場面ではそれなりの手ごたえを
感じながら視聴時間の制限が大切なことを話しました。
ある日、書斎の向かいのパソコンをいじっている夫が
「rainwomanが読みたそうなものを見つけたよ。」
と言いながら、一本の論文をプリントアウトしてくれました。
それはまさに自閉症の数『 Autism counts 』というもので、最高峰の科学雑誌『NATURE』の
電子版に掲載されたものでした。
(Karen Weintraus, Autism counts, Nature, vol. 1.479 3 November 2011)
時々役に立つインドア夫(オット)です。
その論文の内容についてはまた次回。
この忙しい世の中で、相変わらずスローな私をお許しください。
― 続 く ―
どうしてテレビを見せないでというようになったのか 3

2019/01/29 (Tue)
私は以前(2012年8月)、少し硬い言葉で、緊張しつつテレビが子どもに及ぼしていると思われる影響について書きました。
その直後には自閉症とテレビについても当時の諸学会の見解と私の持論についてのべました。
しかし、今回は、その後の諸研究の成果も踏まえつつ、どうして私の気持ちが
こうも確固たるものになったのか、私の心の変遷を書こうとしています。
しかも、ブログを始めるずっと前の出来事から
いつも長文になってしまうのに
20年以上の出来事を振り返ろうとしている私、どれだけ長くなるのだろう・・・
1997年、何年かぶりに小児相手の仕事に戻った私は、子どもたちの様子の変わりように
驚きながらも、とにかく今の最先端を知らねばと、あらゆる機会を利用して、小児の療育や
リハビリに関わるような研修会などに足しげく参加しました。
当時は軽度発達障害に注目が集まり、どこに行っても似たような図が提示され
自閉症、注意欠陥多動性障害、学習障害といった発達障害の定義が説明されていました。

しかもそれらの障害は生まれながらの生物学的特性なのだという決まり文句が付いていました。
それからそれらの三つの障害は互いに重なり合い、境目のないスペクトラムであり、
正常発達との境目もスペクトラムとのこと
私は、勉強したことが流れてしまわないように、とにかく毎回、疑問に思うことを質問し
少しでも自分のものになるようにしようと決心していました。
専門医の医師が講師を務めることが多かったこのような研修会で私は話を聞いただけでは
ちっともすっきりしないことについて質問をぶつけてみました。
例えば、
〈 質 問 〉 発達障害と思われる子どもさんが増えていませんか?
環境とのかかわりはないのでしょうか?
〈 答 え 〉 発達障害は増えていない、障害の定義が変わったり、気が付かれることが
増えただけ, 生まれながらなのだから親の養育態度や環境は関係ない
(私の心の中: 幼稚園だって小学校だって教室の中がこんなに落ち着かなく
なっていても? )
〈 質 問 〉 生まれながらに脳の構造や機能に発達的特性があるということですが、
それはどの部位にどのような変化があるのでしょう?
〈 答 え 〉 脳に何らかの違いがあって正常発達とは違う
( 私の心の中: それは1978年にエリック・ショプラーとマイケル・ラターが言った
まんまじゃない 20年も経って画像の技術や高次脳の研究も進んでいるんだから
どこがどう違うのか言って~ )
〈 質 問 〉 生まれながら他と違うという考えと、正常との境目が無いという考えには
矛盾はないのですか?
〈 答 え 〉 人の素質そのものがスペクトラムですから
( 私の心の中: それって自閉症の遺伝子は単独で存在するのではなくて
多数の複合で症状が出ているって訳? 生活習慣病と同じってこと? )
質問にめんどくさそうにあるいは迷惑そうに答える講師もいれば、
親切そうだけれど歯切れが悪い講師
すっきりしなくてもそれ以上踏み込んでは聞けない雰囲気の中で私のストレスもたまる一方、
本屋で求めた何冊もの本にも同じようなことしか書いてないし、
そんなある日、著名な講師をずらりとそろえた2日がかりのセミナーに大枚をはたいて
参加してみました。
期待して参加したのにまた2日間、同じような話ばかり、
療育に関する話でも子どもに寄り添うとか、親に寄り添うとか、
( もっとすっきりした原因論とか、治療指針とか、
せめて、どう寄り添うのか位、もっと話してくれよ~ )
ちょうどそのころ米国の小児科学会の子どもとメディアに関する提言が出されたりしていたので
私は思い切って質問してみました。
「 昨今、米国小児学会が子どもとメディアに関する提言を出しましたが、
発達障害の子どもたちへも影響を与えているように思えるのですが・・・」
私は自分の臨床の経験からも障害の有無にかかわらずすべての子どもたちにとって
テレビなどの過度の視聴はよくないといいたかったのですが、
私の質問が終わらないうちにそのシンポジウムの座長をしていた女性がものすごい剣幕で
まくしたてました。
「 また、テレビのことですか。いい加減にしなさい。あなたは発達障害を持っている
子どもの母親を苦しめているのですよ。」
( またって、私、あなたとは初対面で、初めて質問したのですけれど・・・
それにテレビを消した家では子どもの状態が劇的によくなり、親も子もニコニコして
それを苦しめているなんて・・・)
など反論する余地もなく、私はマイクを取り上げられてしまいました。
あまりのことに私は唖然としてしまいました。
そうなんだ、この分野ではまだ1970年代の神話が生きているのだ、
私は自閉症をはじめとする発達障害のことをもっと知りたい、深く理解したい、
それを治療に活かしたい
小さい子どもたちに対するテレビをはじめとするメディアの影響についてきちんと説明できる
ようになりたい
という二つのことがらについて、自分自身で勉強していかなければという決意を持つように
なりました。
( 続 く )
どうしてテレビを見せないでというようになったのか(その2)

2018/10/18 (Thu)
前回からの続きです。20年も前の話、
ことばの相談に見えた不思議な2歳8か月の男の子、
ニコニコしていて一見何の問題も見当たらないのに、突然高い声で叫ぶ、走り回る、
そして、無言語
私は、お母さんに思わず 「テレビをゼロにしてみましょうか。」 といったものの、
次の相談までの1カ月間、お母さん大丈夫かな、大変な思いをしていないかな、
それともやっぱり見せちゃったかな、と、ずっと気になっていました。
果たして1カ月後の再相談の日、
親子はニコニコして部屋に入ってこられました。
「先生、しゃべりだしました。テレビをやめたら途端に。パパ、ママ、ネエネとか。
チョウダイとかバイバイもいうし、絵本を見ながらワンワンとかニャーとかいいます。」
私はそうなるだろうとは思っていたもののやっぱりびっくりしていて、
「そう、それはよかった。でもテレビをつけないで生活をするのは大変ではなかったですか?」
と尋ねました。
「はじめの日はリモコンを持ってきたり、テレビの前でウロウロしたりしていましたが、
リモコンを隠して、3日目ぐらいからはテレビのことはすっかり忘れた様でした。」
「それはよかった。」
「それから、叫んだり、走り回ったりもピッタリなくなりました。 マンションなので下の階の
方に迷惑かと思って静かにさせるためにテレビを見せていたのですが、逆効果でした。」
私がお母さんとお話している間も落ち着いて担当の保健師とおままごとで遊んでいました。
お皿にリンゴをのせて 『ドウゾ』 とかいいながら・・・
私はお母さんに無理難題を押し付けてしまったのではないかと心配していたので、
お母さんの話にホッと胸をなでおろしましたが、それと同時にテレビが子どもにこんなに
悪さをしていたのだと思い知らされました。
3回目の相談はその3カ月後、ちょうど3歳、2~3語文で話すようになっていました。
診察にもしっかり応じてくれて口腔内や聞こえにも問題が無いことを確認しました。
お母さんは、子育てが本当に楽しいとますますニコニコされていました。
そして、4回目は3歳と6カ月のとき、テレビの視聴はないままです。
言語発達は、ほぼ正常範囲、理解語彙も十分です。
発信と受信のバランス、語用、発声や構音、注意維持力にも異常が無いことを確認し、
この子の相談を終了しました。
その後も、これはと思われるお子さんにはテレビの視聴についてのアドバイスを
するようにしました。そしてその効果の大きさに改めて驚かされました。
そんな時、米国小児科学会より衝撃の提言(1999年10月)がなされました。
2歳までの子どもにはテレビを見せるなというものです。
やっと見つけました。お母さんたちに説明するための根拠を。
まだ、しっかりとした科学的な証拠に基づいてというほどのものではなかったのですが、
テレビがよくないというのが私や一握りの人間の勝手な考えではないといえるようになったのです。
(米国小児学会ホームページ: 10年以上経過した記事は削除されていますので、
2011年11月の POLICY STATEMENNT でご確認ください。
それから4年以上も経っていましたが、2004年には日本小児科医会も
子どもとメディアの問題に対する提言を出しました。
日本小児科医会ホームページ
― 続 く ―
どうしてテレビを見せないでというようになったのか

2018/10/07 (Sun)
お伝えしたいことが山ほどあって、整理がつかなくなってしまうので、時間の流れとともにお話してみたいと思います。
以前書いたことと重なることもあるかもしれませんが、私がどうして信念をもって
子どもにテレビを見せるのがよくないと思うようになったのか、
少し長くなるとは思いますが、子どもさんのことでお悩みがある方はお付き合いください。
もう20年以上も前、私は今の職場に入職し、何年かぶりに小児の分野の仕事に戻りました。
同時に、保健所でのことばの発達相談の担当をすることになりました。
立ち上げたばかりの相談事業で、そのシステムをどう構築していくか、対象者をどのような年齢や
疾病にしていくのか、連携先をどうするか・・・まだまだそんなことで頭が一杯になっていました。
そんなある日、あるお母さんから質問を受けました。
「先生、テレビは子どもに見せてはいけないのですか?」
「見せすぎはいけないでしょうね。特に小さい子どもさんには。目も悪くなるし
、発達のための活動時間も奪われるし、
親子のスキンシップの時間も少なくなれば、情緒にも影響します。」
「テレビを見せると自閉症になるって言われました。」
「えっ、誰がそんなことをいったのですか?」
「自閉症は生まれながらの障害なのですよ。ただ、テレビは見せすぎないようにね。」
当時は自閉症が生まれながらの生物学的な特性であるという考えがやっと日本中、
廿浦浦(つづうらうら)まで広まったところで
親がテレビの見せすぎだなどと責められることがやっと無くなったころです。
そんなことをいう人は専門家としては失格であると思われるようになっていました。
子どもの障害のことを親や環境のせいだというのはとても危険な考えだと私も思い込んでいました。
勉強をしているはずの人がそんなことを言うなんて・・・
心の中のさざ波を隠して、私はそのお母さんに続けました。
「いずれにしても3歳の子どもさんにはせいぜい30分の番組一つぐらいにして、
子どもさんに関わる時間を少し増やしましょうね。」
ところが、その相談事業が軌道に乗るにつれ、
子どもたちの様子が以前とはずいぶん変わってきていることに気が付きました。
ことばの発達が遅れている子どもの数がとても増えていること
しかもその子どもたちが情緒的な問題や多動性、衝動性等、行動の問題も合併していること
身辺自立が遅れ、何も自分ではできない子どもがいる
視線が合わない、人と関わることが難しい等の社会性の問題を持つ子どもも多いこと
ある程度の年齢になって、発音や吃音での相談で他には問題が無い
と親はいっていても、とにかく落ち着きのない子どもたち
この数年間で、どうしてこんな変化が生じたのだろう、
子どもの発達の問題や特性が生まれながらのものだというのであれば
こんな大きな変化が一気に起こるわけがない
確かに親の子育て力が落ちているようにも思えるけれど、それだけではないはず、
そう思って私は相談に来られるお母さんたちに事細かに生活の様子を聞くようにしました。
それは驚きの連続、
起きる時間、寝る時間、食事やおやつの時間が決まっていない
どんなに子どもが疲れていても、夜、寝ないのが困るから昼寝はさせない
のどが乾いたらいつでもジュースを飲ませている、麦茶や水は飲んでくれないから
欲しがればお菓子を与え、そしてご飯を食べてくれないと嘆くお母さん
逆におやつも与えず野菜ばかり食べさせようとしているお母さんも
玩具はボタンを押せば音や光が出るものや、電車や車ばかり、
しかも与えているだけで一緒に遊ぶことはない、
一日中、テレビが付いている家、等々・・・
私はその子を取り巻く環境の中で一番発達の妨げと思われることについて
一つ一つ具体的に改善案をアドバイスをするようにしました。
生活習慣のこと、食事のこと、遊び方、声のかけ方、癇癪への対応、等等・・・
数か月空けての再相談で少しずつ状態が変わり、心配が少なくなる子どもさんもいましたが、
すっきりしない子どもさんはことばの訓練や療育訓練に導入しました。
そんなある日、とても不思議に思える子どもさんが相談に見えました。
2歳8か月、ニコニコしているのに急に叫ぶ、走り回る、そして無言語。
一見して、大きな障害があるようにも見えず、お母さんにいくら聞いても生活上、
大きな問題点はありません。
録画したアニメをずっと見せていること以外は・・・
以前、テレビで自閉症になるのかと質問されたことを思い出して、私は思わず、
「画面を見せるのをゼロにしてみましょうか。」と言ってしまいました。
「ゼロですか?」
私は極端なことを言ってしまったという気持ちもありましたが「できれば」と答えました。
私は、テレビを消すことで、お母さんが苦しい思いをすることなるかもしれないと思い、
通常は3~6か月後の再相談を1月後に予定しました。
― 続 く ―
どうしてテレビが悪いのか

2018/07/24 (Tue)
リュウくんのこと、長文でしたが読んでいただけましたか?私の臨床の流れみたいなのを一度書いてみようと思っていました。
実際に書いてみるといろいろなテーマが入り込んで何を言いたかったの?と思われた
かもしれません。
子どもさんとの関係づくり、保護者との関係づくり、
子どもさんの症状の診方、
治療の実際(コミュニケーションの治療、音声や構音の治療、情緒の問題への対応・・・)
保護者への指導等等・・・
でも、やっぱり一番言いたかったことは、テレビのことです。
というか、そもそもこのブログを始めたきっかけもここにあります。
小さいころの長時間視聴が、いかに子どもの発達を抑制し、ゆがめていくのか、
それをやめれば、劇的に子どもが変わる、ということ。
リュウくんの場合はテレビをやめたからってすぐに話せるようになったわけではありません。
しかし、訓練前の数か月間、お母さんがテレビ無しで頑張ってくださったおかげで
その後の訓練がスムーズに進み、大きな効果を得ることができたと思っています。
リュウくんの変化のことで、そんなにどんどん発達が進むはずがないと思われる方も
多いと思います。
まずは、下記のホームページにアクセスしてみませんか?
リュウくんとよく似た子どもたちの動画が提供されています。
Kids21子育て研究所
次回からはどうしてテレビ(電子メディア)視聴が小さい子どもさんに良くない影響を及ぼすのか
科学的なエヴィデンス(証拠)を示しながらお話したいと思います。