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なりたい自分になるということ・6

kage

2017/02/22 (Wed)

皆さん、こんにちは。

小学生になったK君のお話です。初めての方は是非、昨年9月8日付の記事から順に読んでください。

K君は親から遊んでもらった経験も少なく、保育園でもルールが守れないし、衝動的に粗暴な行為が
出てしまうので、同年齢の子どもたちと楽しく遊ぶのはとても困難でした。
1年前に私が担当になってからやっとすごろくやトランプなどルールに従って相手と競う遊びや、
ごっこ遊びの楽しさを知るようになったばかりでした。

私は再三、担任に他児が遊んでいる場面に上手に誘導してくださいとお願いしていましたが、
担任は「大人の力を借りず、自分から参加できる子になって欲しい」
と休み時間のK君を一人で放置しました。

「それができるのであれば、何も困らないんだよ~。」
「やれないことをやれるように上手に導くのが指導者の役割でしょう。」

しかし、私の心の叫びは担任の固まった信念を揺り動かすことができませんでした。

ある日、K君はお母さんの後ろに隠れるようにして、来院しました。
あいさつをして訓練室に導こうとするとお母さんが、
「あの~、3日ほど前のことなんですけれども・・」と話し始めました。

K君は私とお母さんの間に入って、「ママー、言わないで、言わないで、」と泣き出しました。
お母さんはそれに構わず、話し続けられました。

昼休みに一人で教室に残ってパトロールごっこをしていたそうです。教壇のあたりを自分の基地に
して、そこへ掃除の手伝いをしてくれる6年生の男の子が4人ほど入ってきて、K君はとっさに
「怪しいやつ、ここから出ていけ、さもなければ撃つぞ!」と両手で銃を構える真似をして・・・
それで「お前、バッカじゃねえの。」と言われてカッとなり、先生の机の上のハサミを取って、
「貴様、ぶっ殺してやる~」その6年生を追いかけまわしたとのことでした。

まあ、年齢差がありますから事なきを得ているのですが、担任は大きな問題と考えたようです。

物で相手を傷つけようとする行為はこの1年ほどは全くなかったのですが、

お母さんから話を聞いている間にK君は訓練室に入り、中から鍵をかけて、
隅でうずくまって泣いていました。

「K君ごめんね、先生、鍵持ってんだ。」と近くに行こうとすると
「先生、来ないで、来ないで、怖い、怖い・・・」と言って泣きました。
「先生、怒ってないよ。」と言っても「怒ってる、怒ってる・・・」と言ってまた泣きました。
「ねぇ、」と言いかけると、「怒らないで、怒らないで、先生の声、怖い怖い・・・」
「優しくいって、優しくいって・・・、怖い怖い・・・」(これ以上優しくはいえないな~)

今回は、15分経っても20分経っても、同じ調子です。全く私に話をさせてくれません。
とうとう30分が経過しました。次の子どもが来る時間が迫っています。

私は最後の手段に出ることにしました。

「うるさい!黙りなさい。」

私も、少し感情的になっていたのでしょう、自分が予定していたよりも
大きな声が出てしまいました。
「何があっても君のことが大好きだよと言いたいだけだよ。」と荒っぽい声で続けました。
K君はワアーッと泣いてそれから泣き止もうとしばらくしゃくりあげ、自分から椅子に座りました。

彼は蚊の鳴くような声で聞きました。「僕のこと、好きなの?」「 どんなことがあっても?」
私はうなづき続けました。

「今日は僕、帰るね。」
部屋から出て私はお母さんに謝り、お母さんも私に謝り、そして帰っていきました。


君は優しい人になりたいし、そして君は愛される人になりたいんだ。


それからは、私の前で取り乱すことはなく、自分から学校や家庭でのトラブルを報告し、
今度そんな場面に出くわしたらどうするかを2人で考えました。

2年生からは情緒学級という区分の特別支援学級に在籍し、今度は体格の良い男の先生でした。
この先生は、子どもたちに「こうなって欲しいという姿」を押し付けることなく、
「こうなりたいと思う自分の姿」を明確にしていくことを手助けしてくれる先生でした。

K君はみるみる落ち着き、発音の練習も進んで、そろそろ卒業かなと考え始めた頃でした。

教材を取ろうと席を立った私の背中にK君が言いました。
「rainwoman 先生って変だよね。」
私は後ろを向いたままで「何が?」と聞きました。

「大体、先生みたいな仕事の人、ほら、(他院の)児童精神科の先生達とか、療育センターで
検査をしてくれた先生とか、僕が何をやっても文句言わないよ。」 「で、私は?」
「口うるさいんだよ、扉はそっと閉めろとか、背中をまっすぐとか、ティシュは2枚までとか・・・」

「へぇ、悪かったわね、私は口うるさい人間です。はい。」といって、
彼の前の椅子に腰かけました。

「でもさ、これは何が何でも絶対叱られるなと思ったときに、絶対に叱らないんだよ。
僕にそれはだめだと一回も言ったことがないでしょ。一回も僕を叱ったことが無いんだよ。」

「一回、どなったことがあったけどね(笑)、でもK君を叱りたいと思ったことは
一回も無いかな。」

「やっぱり先生、変わってる・・・」

まもなくK君は定期の訓練を終了し、数か月に一回の経過観察を続けることになりました。


君のなりたい自分は人に優しい自分、君のなりたい自分は人から愛される自分。


そして君はもう十分にそうなりつつあるんだよ。

                                    ( 完 )






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なりたい自分になるということ・5

kage

2017/02/05 (Sun)

何か月も前に書き始めた記事にやっと終わりが見えてきたと思っていた矢先、
ちょっとしたミスで、消えてしまい、また書き直しです。

AD/HDと診断され、反抗挑戦性障害に移行しようとしていたK君。
絶対叱らないで、一緒に遊ぶ楽しさを教えて、そして、具体的な場面に応じてなりたい自分の姿を
描かせて、何とか落ち着いて卒園式のシーズンを迎えることができました。

 「卒園式は出るの?」と聞いてみると「でるよ、練習もしているし。」とK君

 「でも本番はたくさんの人が来るよ。偉い人も来て、長い話もするし、退屈だと思うんだ。」
と、私は情報を与え、

 「大きい声を出したくなったらどうするの?」 「う~、あくびすることにする。」

 「なるほど、立ちたくなったら?」
 「前には行かないことにしようかな~。」

私は園の先生に電話をし、式の途中で動きたくなった時に行ってもよい場所を
決めておくようにお願いしました。

こうして卒園式本番は3回ほど背伸びをして大きなあくびをしたそうですが席を立つこともなく
無事終了することができました。

そして入学式もね!

しかし小学校にはまだまだ乗り越えなくてはならない壁が待ち受けていました。

まずは、担任の先生。
K君の特性を踏まえ、ベテランでとても評判の良い、指導力のある女の先生が配置されました。

しかし、その先生は、K君を何とかいい子にしようと必死で、ことあるごとに
K君に言い聞かせ、お母さんにもあれこれ注文を付けてこられました。

先生が正しい方向を示し、それに従わせるという方法は、
どんなに優しい声でも穏やかな態度でもK君には大きなストレスです。

K君はイライラし始めていましたが、彼なりに自分をコントロールしようと努力していました。

そして4月も終わろうとしている日に事件は起きました。

保育園から大好きだったモモちゃんは隣のクラスです。
休み時間にちょっと様子を見に行ってみたら
ほかの男の子がモモちゃんと話しているではありませんか。
カッとなって、その子を思いっきり突き飛ばしたというのです。

小学校ではいい子だと思われたかったのに・・・早くもなりたい自分像が崩れてしまいました。

その後は大パニックで、担任が話そうとしても治まらず、母親に迎えに来てもらったそうです。

その日はちょうど訓練の日で、あらかじめ担任から連絡をもらったので、
私は覚悟を決めることができました。
一年かけて築き上げた私とK君の信頼関係は少々のことでは崩れないという自信がありました。

K君は案の上、大声を張り上げながら訓練室に突入し、さっそく物を投げようとしました。
私は彼の両手首をしっかり掴み、静かに「投げないで。」といいました。

以前は物を投げても決して止めることがなかった私から制止され、K君は一瞬びっくりした顔をし、その後は、

 「バカ~」,「ハナセ~」,「クソババア~」,「死ね~」 等等、

と大声で叫びながら、手を振り解こうと身をくねらせたり、
私のスネをしこたま蹴り続けたりしました。

 「ねえ聞いて・・・」と話そうとしても

 「うっせぇ、ぶっ殺すぞ!」

と私の手に噛みつこうとしたり、でも私は絶対離さないと決めていました。

15分ほどもみ合っていたでしょうか、二人とも汗だくになり、ちょっと彼が静かになったところで
私は切り出しました。

 「君が優しい子だってことは知ってるよ。」・・・・反論はありません。続けることにしました。
 「隣のクラスの子にけがをさせたかもしれないと思ったら耐えられないんでしょ。」

K君はかすかにうなづきました。

 「本当に君は気持ちの優しい子だ。」

と私は言いながらK君の手を放し、椅子に座らせました。

しばらくの沈黙の後、K君は「先生、今日は帰るよ。」と穏やかに言いました。
 「そっか~、じゃあ来週は訓練頑張ろう。」

私は訓練室から出て、お母さんに謝りました。
 「ずっと握っていたので手首が真っ赤です。申し訳ありません。訓練もできませんでした。」

お母さんも平身低頭、
 「あのバカが、先生にいつも迷惑かけて・・・」
以前よりはずっとお母さんらしい姿で、何か暖かいものがふわっと
私の中に入ってきたような気がしました。

K君は何もなかったような顔をして訓練室から出てきて、

 「先生、来週はがんばっからね~、バイバーイ。」といって帰っていきました。

彼を送り出した後、急に足に痛みを感じ、見てみると私のスネはうっ血し、
数日間は腫れが引きませんでしたが、彼のこれまでの心の痛みに比べればなんてことはありません。

君は優しい人になりたいんだ、優しい人と思われている人になりたいんだね。

ずっと応援するよ。  決心を新たにした一日でした。


                      続く・・・次は完結の予定・・・           
                           


クリスマスのプレゼント、なんにします?

kage

2016/12/01 (Thu)

グズグズしている間に、12月に入ってしまいました。


このところの話を完結できないままで、緊急の話題です。

子どもたちへのクリスマスプレゼントはもう決められましたか?
まだ決めていない方、もう決めたけど、まだ変更できる方、
是非読んでくださいね。


昨年のクリスマスには多くの携帯用ゲーム機が子どもたちにプレゼントされました。

何年も前から存在したゲーム機です。
持っている子どもが年々低年齢化して、院内でも診察を待っている間、
周りの様子に目もくれずゲームを黙々としている小学生たちの様子に
ひどく違和感を持っていましたが、

昨年は、年中さん位の子どもたちにまで、サンタさんが持ってきてしまったのです。

私たちは頭を抱えました。

あの子もこの子も返事しなくなったよ。目が合わなくなったよ。
会話がなんかかみ合わない。
発音の練習をしても、すぐに注意が飛び、遊んでいても、何回もおもちゃを落としたりします。
発達障害のあの子はまた叫びだしてしまった。

クリスマス前の様子と比べ、大きな変化がある子どもたちには、コッソリ聞いてみました?

『サンタさんのプレゼント、○○(ゲーム機の名前)でしょう?』
『ウン。』
『やっぱりね。』


日ごろから、子どもの年齢、発達段階、問題行動の状態などを考えて、
ゲームをする頻度や時間などについてアドバイスをしてきましたが、
未就学児にはやはり早すぎます。


子どもの願いをかなえるべく、大金を出して用意したサンタさんたちの気持ち、
胸が張り裂けそうでしたが、時間をかけて、使わせないようにと、説明をし、
親子ともに納得してもらって

院内に落ち着きが戻るのにひと月以上かかったと思います。

そこで、年間を通し、メディアやゲームの弊害についての啓蒙のチラシや
根拠としている論文(後日お知らせします)などを待合室に置き、
ことあるごとに説明をするようにしました。



さあ、もうすぐクリスマス、ちょっと早めに聞いてみました。

『サンタさんに何もらうの?』


さすがにゲーム機という子はいないのですが、


『(戦隊ものの)ベルトと剣』

ああ~、それもやめて~、


音や光の出るおもちゃを繰り返し使うことも子どもたちの脳に深刻な影響を与えます。

現に、赤ちゃんの時からボタンで音と光が出るようなおもちゃがお気に入りで
言葉が遅れている子が言葉の相談に来られます。


3歳になるぐらいまであまりテレビなど見せず、もちろんスマホ画面も見せず、
ことばの発達や対人関係、落ち着きに問題がない子であれば
年長さん位から使ってもいいかもしれませんが、
わが子が落ち着きがないと思われている方はどうかやめてください。

と言って、おもちゃ売り場に行けばそんなのばかり、
親にとっても、子どもにとっても、そしてサンタさんにとっても
とても難しく、残酷な時代です。

アナログで、親子で遊べるものを是非選んでください。
積み木、ブロック、年齢とともにボードゲーム、
男の子も意外とよろこぶおままごセット、お人形など・・・

そんなのもうある、という方、色のいっぱい入った色鉛筆とかクレパスとかも
楽しいし、毎晩読んであげる絵本の数が増えるのも子どもたちが喜ぶかも・・・




『 なりたい自分になる 』ということ・4

kage

2016/11/08 (Tue)

何かトラブルがあると大暴れしていたK君は、
『絶対に叱らないぞ作戦』と『一緒に遊ぶと楽しいぞ作戦』を実践していく中で
徐々に落ち着いていきました。

K君は何か困ったことがあったら自分では伝えられないけれど
私には知っていてほしいと思うようになりお母さんを通して自分の失敗を告げるようになりました。

「今日は園で鉛筆で線を書く練習をしていて、手を振り上げた拍子に隣の子の目のあたりに
鉛筆の先が当たって、先生から目に当たったらどうするのって注意されたみたいです。」
とお母さん。

園にも叱ったら逆効果ですよと伝えているけれど、なかなかとっさの時の判断は難しいようです。

私は訓練室でK君をすごろく遊びに誘い、サイコロを振る合間合間にさらりと聞きました。

「やっつけようと思ってやった?」
「いいや。」

K君もさりげなく、すごろく版に目をやったままで答えました。

「わざとでなかったんだ。偶然当たったのに叱られたんだ。」
「ウン。」

私は子どもたちの癇に触れるような話をするときには、簡単に答えられるように
Yes か No で答えられる質問で聞くようにしています。
視線を合わせて話させると余計に緊張が高まりますから、何かしながらね。

「でも、目に刺さらなくてよかったよね。」
「ウン。ウン。」

「そうか、お友達をケガさせるような人になりたいと思っているわけではないんだ。
 先生、ホッとして涙が出そう。」

K君は私のほうをチラと見て、泣きそうな顔になりました。


すごろくが終わって、私は鉛筆の持ち方を教えました。

「鉛筆は棒を持つように持ってはいけないよ。
 とがったほうの近くを親指と人差し指でつまんで中指を添える。」
「そうそう上手、鉛筆を手にするときは必ずこの持ち方、
 後で持ち替えようとしないで始めからね。そしたら人をケガさせることもない。」


私はその他にも人にハサミを渡すときの向きや
机上に物を置くとき大きな音を立てたらいけないことや、
落ちないように場所を考えることなどを、教えました。
当たり前にできるようになるまで、徹底的にね。


お遊戯会には参加したいのか、参加したくないのか、
お遊戯会の練習を邪魔したいのか、邪魔したいと思っているわけではないのか、
小学校入学までに名前を書けるようになりたいかなりたくないか、

私はことあるごとに、K君にこうありたいと思う自分の姿について
自己決定を求め、その決定がうまくいくように援助しました。


『 K君の中に(なりたい自分)の姿を明確にする作戦 』の開始です。


当初の目的であった発音の練習も少しずつ取り組めるようになってきましたが、
何分、注意が非常に短く、先生が言い終わってから言ってねと言っている間に、
他の物に目が行ったりします。

児童精神科の医師とも相談し、注意力を上げるための薬も処方してもらうことにしました。
その薬を飲むか飲まないかについても自己決定してもらいました。


そうしながら、K君は徐々に落ち着きトラブルの回数も減っていきました。


でも、安心するにはまだ早い。



小学校には薬だけではどうにもならない大きなストレスがK君を待ち受けていました。





          ・・・また、続きです。ごめんなさい・・・


『なりたい自分になる』ということ・3

kage

2016/11/01 (Tue)

前々回からの続きです。

多動・衝動性と注意集中力の障害、すなわちAD/HD(注意欠陥多動性障害)が、
反抗挑戦性障害に移行しようとしていたK君のお話です。

担当した日に大暴れしてくれたので、私はしっかりと自分の方針を固めました。
『絶対に叱らないぞ作戦』に加えて『一緒に遊ぶと楽しいぞ作戦』の開始です。

今のままでは発音の訓練どころではありません。
また、人といい関係を保とうと思わなければ、いくら上手に話せても意味がないと思うからです。

K君は、機嫌のいい日は待合室で、大きな声で一方的に周りの人たちに自分の好きなトミカの
話などをしていて、彼が来院していることをほかの場所からもすぐに察することができました。

そんな日は訓練室でも上機嫌で遊びます。遊ぶといっても人と遊んだ経験がほとんどないK君。
家族もテレビを見せるばかりで、ほとんど遊んでやることがなく、
園でもルールを守れないのでなかなか遊びの輪に入れないのです。

ただ、持参のトミカを並べたり、車種のことをいろいろとまくしたてるだけです。
私がいろいろな遊びに誘っても、協力したり、競ったりする遊びは全く興味を示さず、、、、

こうなったら仕方がない、

子どものご機嫌をとったり迎合したりするのは好きではありませんが、
とにかく仲良くなるのが先決です。
「どうしてそんなに車の種類を覚えられるの?」
とちょっと驚いた表情で聞いてみました。

「え~っ? だって簡単だよ。ほらこれは○○年式のトヨタクラウン、こっちは何年式と思う?」
「クラウンということはわかるけど何年式なんてのは全然わからないわ。K君、わかるの?」
「簡単、△△年式だよ。じゃあ、これならわかるでしょ、この前説明したんだから。」
「イヤ~ッ、(それ初めて見たし)全然わからない。」
「ダメだなー!」

得意げなK君は回数を追うごとにたくさんのトミカを手提げ袋にいっぱい持ってくるようになり、
彼の車談義は炸裂しました。

それでは、機嫌の悪い日、つまり園でトラブルがあった日は、どうでしょう。
「ワア~」と大声を上げながら訓練室に一目散に駆け込み、そして、物を投げる投げる、

私はもう止めようとはしません。だって、『絶対に叱らないぞ作戦』中なのですから。

私は、K君にこれも投げてとティシュの箱を差し出しました。
K君はハッとして私を一瞬見ましたが、すぐに箱を奪い取って勢いよく叩きつけました。
パーンといい音が出ました。

つぎは用意していた『レゴ』のバケツ。バケツごとは渡しませんよ。一回で終わっちゃうからね。
レゴを一掴みずつね、何回もバラバラと音を立てて散らばりました。

私は、後ろ手で、壊れそうなものや片付けが厄介そうなものは棚の高いところに置き、
プラスチックの玩具や、絵カードの束などを、

「そうか、そうか、そんなに嫌なことがあったんだ、これもなげなよ。」
なんていいながら渡しました。

ひとしきり投げ終えて、K君の勢いが治まってきたところで私は何もなかったように言いました。
「そろそろ時間だから、片付けようかな~。先生頑張るから、待ってて。
きれいになったら終わりの挨拶をしようね。」

そんなことが数回あったでしょうか?
嫌なことがあって、部屋に駆け込んできても、暴れる程度も頻度も比べものにならないほど減じ、
「ママに聞いて!」というようになりました。

失敗したことを私に知られるのがあんなに嫌だったのに、自分自身で話すことは無理でも
私に知ってほしいと思うようになったのです。

遊びも、すごろくやトランプなど、一緒に遊ぶ楽しさが少しずつわかるようになったようです。
勝つために勝手なルール変更は頻繁で、少しでも形勢が不利になると顔色が変わったり、
途中でやめたりはあるのですが、、、、(笑)

そして帰り際は、クリニックの出口まで見送る私に「先生大好き」と言って抱き着き、
それから帰りの挨拶をするようになりました。


『絶対に叱らないぞ作戦』と『一緒に遊ぶと楽しいぞ作戦』は大成功!

「先生もK君大好きだよ!」
と、自分自身、確信を持てた時に私は次の方針を定めました。

『K君の中に(なりたい自分)の姿を明確にする作戦』 です。     



                               ・・・・つづく・・・・

『なりたい自分になる』ということ・2

kage

2016/09/20 (Tue)

前回からの続きです。

軽い脳性麻痺で、発音の不明瞭さを主訴に来院したK君は、強い多動・衝動性と
注意集中力の障害を持つAD/HD(注意欠陥多動性障害)の子どもさんでした。

幼い時からのテレビ視聴で現実・非現実の区別がつかず、いつも自分は警官気分。
保育園で何かトラブルがあると思うと犯人に違いないと思う子に襲い掛かりました。

そんなK君を担当することになってまだ方針が定まらないうちにその日はやってきました。

K君、大声を上げながらクリニックに飛び込んで来たかと思ったら、
あっという間に訓練室に走りこんで、そこら中のものを片っ端から投げ始めました。

どうしたのと声をかけるとさらに興奮し、ズボンを下ろして放尿を始めました。
そして部屋の隅に寝転がり大きな声で泣き続けました。

私は黙って雑巾で床を拭きながら、
後ろから入室してこられたお母さんが事情を話されるのに耳を傾けました。。

今日は泣いているモモちゃんを助けようとして隣にいたユウ君を突き飛ばし、
けがをさせてしまったということです。

モモちゃんは自分で作った粘土の人形を落として泣いていて、
ユウ君はそれを慰めていたところだったということ・・・


その日のことで、私はK君自身が深く傷ついていることに気が付きました。

人に良かれと思ってしたことが裏目にでてしまう。
叱られてしまう。
嫌われてしまう。

保育園の先生からもお母さんからも何度も何度も叱られ続けたことで彼の障害は
AD/HDという範疇を超え、反抗挑戦性障害というものに変わりつつありました。

はじめは正義の味方のつもりだったのに、度重なる失敗で
『どうせ僕は叱られる人間だ』という意識が芽生え始めていたのです。

そして、今日の出来事をお母さんが rainwoman先生に告げるに違いない、
先生も僕のことを責めるかもしれない・・・
先生も僕のことを悪い人間だと思うかもしれない・・・

不安で押しつぶされそうになって・・・そして暴れたのでしょう。
『なりたい自分』はこんな姿ではないのに・・・・


この日の診療を終えた後、私は随分長いことK君への対応の仕方を考えていました。

勘違いするなといってもワザとに勘違いしているわけではないし、
暴力はいけないといっても、K君、そんなことぐらい、とっくに知っているよね。
物は投げないほうがいいことも部屋でおしっこしたらいけないことも全部知っている。

でもそうなってしまって、叱られたり、嫌われたりすることに怯えている、


そうだ!『絶対に叱らないぞ作戦』で行こう!と私は決心しました。


お母さんには、訓練とは別の日に一人で来ていただき、今までのカルテの記載では
不十分な点をお聞きしたりしながら、少しお願いもしてみました。

 「メディア視聴が長い子はことばの発達が遅れたり落ち着かなくなるのです。
  テレビの時間を短くできませんか?見ている番組も子どもさんには不向きな内容ですよね。」

するとお母さんからまさかの反応。
 
 「私がそんなの(刑事ものなど)が好きなんです。それにテレビがついていないと
  自分が落ち着かなくて絶対に無理です。」

(ソッカ~)

私はタイミングを見て次のお願いをしてみました。

 「ヘエ~ッ、K君、トミカが好きなんですね。一人で遊んでくれて助かるでしょう。
  でも、たまにお母さんが一緒に遊んでやると優しい気持ちが出てきますよ。
  お友達と遊ぶのも上手になると思うし・・・」

それに対するお母さんの返事は、

 「いや~っ、トミカですか?私、トミカには興味ないんですよね。」

このお母さんには少し無理なお願いでした。

K君、君もお母さんが足りていなかったんだね。
だから、ここまで不安定な気分になるんだ・・・・

こうなったら私がいっぱい、いっぱい、一緒に遊んであげるしかありません。


『絶対に叱らないぞ作戦』に加えて『一緒に遊ぶと楽しいぞ作戦』     開  始 !

そして、警察官ではなくて、トミカ好きでもなくて、もちろん暴れる姿でもなくて、
K君の『本当になりたい自分の姿』を探り当てるタイミングを待つことにしました。

                                ・・・つづく・・・


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