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どのような子育てでどのような子どもが育つのか

kage

2013/03/31 (Sun)

ずっと書きたいと思っていたテーマです。

子育ての仕方とその中で育った子どもの人格については、心理学の世界ではサイモンズの親の
養育態度尺度というものが有名です。
サイモンズは親の態度を支配的か服従的か、拒否的か保護的であるかという二つの尺度で示し、
双方の尺度の真ん中あたりにあるのが理想的な子育てであるとしました。

サイモンズの手法はその後、多くの心理学者の研究に応用されましたが、私はブログでこのテーマを
取り上げるに当たり、今の日本の子育て事情と子どもの姿を反映しているわかりやすい研究が
無いかなと思い、ずっと探していました。

少し時間が経っているのですが、
総務庁青少年対策本部の低年齢少年の価値観等に関する調査(平成12年12月)
がわかりやすかったので紹介します。

その第三部の第3章を担当したお茶の水女子大学大学院人間文化研究科助教授の伊藤美奈子先生の
研究です。第3章 子どもの問題行動の発達的特徴とその背景にある諸要因

小中学生の母親の質問紙への回答をもとに親の関わりと規制という尺度で子どもの育ち方を分析
しています。

関わりの尺度では関わりが多いタイプの親では子どもの自己意識(自己肯定感・自信)が良好で、
親の養育態度に対しても子どもは肯定的な気持ちをもっているという結果が得られています。
関わりが少ないと自己意識が低くなる、つまり自信が無く親の養育態度にも否定的な気持ちを
持つようです。また、規制の尺度では規制が多いと規範意識が高く、親の規制が少ないと子どもの
逸脱行動が多くなることが分りました。


親の養育態度のタイプ

伊藤美奈子先生は、親のタイプを図のように4つにタイプ分けて

『両高タイプの母親を持つ子どもは,問題行動も少なく規範意識も高い。自己意識も良好で,
親に対するイメージ(子どもが認知した親の養育態度)も好意的である。

これと対照的であるのが低関与タイプで,このタイプの親を持つ子どもは,問題行動が多く
規範意識も薄い。自己意識は低く,親に対する評価も否定的である。

一方,密着タイプの親を持つ子どもは,逸脱行動はやや多く見られ,規範意識もそれほど
内面化されていないが,自己意識は良好で,親に対するイメージも好意的である。

また,管理タイプの親の場合,その子どもは逸脱行動は少なく,規範意識も高い。ところが
自己意識はそれほど高くなく,親の養育態度に対する評価もやや否定的である。』としています。

そして、『子どもにとって親からの関わりと規制という両方向がそろって与えられることの
必要性を示唆するものといえる。』とまとめられています。

私は管理タイプの親に育てられて、自信のない子どもでした。
自分が子育てするときは、世の中に子どもに好きなようにさせることが良いことだとするような
風潮があり、密着タイプが良いのかとも思いましたが、両親から叩き込まれた人に迷惑を掛けない
という規範意識は否定しようもなく、結果、両高タイプとなっていたように思います。
つまり愛情はたっぷり注ぎ込みましたが、親から教えてもらった社会規範を受け継いで子どもに
伝えようとしました。

ただ、子どもを否定したり感情的に叱ったりすることはしないと心に決めていました。

皆さんはどのような育ち方をして、そして今はどのような子育てをされていますか?


最近の療育事情(服薬について)

kage

2013/03/21 (Thu)

毎年この時期になると自閉症などで長期治療をしている方で、コミュニケーションの手段が確立し
情緒的にも安定していれば訓練終了にしなければならないことは前回記事に書いた通りです。

先日、4年ほど前にそうやって終了にした中学1年生のR君のお母さんから「一度会ってもらえま
せんか」との電話。たまたま急なキャンセルがあったのでその日のうちに連れて来てもらいました。

R君は自閉症です。就学まではお住まいの市のセンターで療育を受け、小学校入学と同時に年齢制限
の無い当院に来られた子どもさんでした。小学校の特別支援学級に在籍していましたが、意味のある
発話はトイレを知らせる時ぐらいで、あとはエコラリア(いわゆるオウム返し)となっていました。
例えば「パズルするの?」と聞けば「パズルするの?」「しないの?」と聞けば「しないの?」と
答えてしまいます。結局パズルを前に置いてしたいのかしたくないのか彼の行動から判断する必要が
ありました。でも、いつもニコニコ、ご両親が可愛がっておられるのがよく解かりました。

2年ほどの訓練で「かみとえんぴつをください。」と要求したり、「日、えんそくいきます。」
と予定を伝えたり、「すいぞくかんにいきました。イルカがジャンプしました。」などと報告する
ことができるようになりました。途中、落ち着かない時期もあったのですが、4年生になり特別支援
学校に移ってからは落ち着いて、訓練終了にしていました。

さてもうすぐ中学2年生のR君は背も高くなり、なかなかのイケメン。私の顔を見ると嬉しそうに
『rainwoman せんせい、こんにちは。』と声変わりした声で言ってくれました。でもそのあとは
ずっと独り言。全く視線が合いません。そして両手を胸の前でずっとこすりあわせて何やら言って
いますが全く意味がつかめません。

「R君、学校は楽しいの?」と聞いてみると「あの~あかいしかくとあおいしかくがあります。
それがこうなって・・(と手をくねらせ)〇※☐~&*$△#・・・」後はまた独り言、しかも
ちっとも聞き取れません。「R君、学校は楽しいの?」ともう一回同じ質問を繰り返すとまた
「あの~あかいしかくとあおいしかくがあります・・・・」と同様の反応。独り言が続きます。

「Yes」か「No」で答えればよい一番簡単な質問形式ですがうまく答えられません。でも
なんか聞かれたから答えなければという気持ちはあります。もしかしたら、「Yes」か「No」
で答える前に楽しかった内容を直接私に伝えようとしているのかもしれません。それが私に伝わって
いるのか私の様子を見るという共同注意という作業が欠落し、そして自分のことばが刺激になって
また独り言の世界に入っているように見受けました。

私は少し意地悪く、「わかった。学校楽しくないんだ。」と言ってみました。R君ははっとした
表情をして、あわてて「がっこう、たのしいです。」と私の目を見て言いました。
「そう、楽しいの?」「はい、たのしいです。」

R君は私が何も言わないのに黙って立ち上がり、棚から以前使っていた絵カードを持ってきました。
「お勉強するの?」ときくと「はい、べんきょうします。」

R君は4年も前にやっていた訓練のやり方を覚えていました。
まず車の絵を見てR君「じどうしゃに のります。」「誰と乗るの?」ときくと「おとうさん
うんてんします。」「ああ~、お父さんと乗るんだ。」「はい、おとうさんとおかあさんとRくんが
のります。」「運転は誰がしますか?」「おとうさんがします。」
コップの絵をみて、「コップ のみます。」「コップで何を飲むの?」「ストローでのみます。」
「オレンジジュースを飲むの?」「コップでリンゴジュースのみます。」

会話がかみ合っていないところに私が軽いツッコミを入れるという感じです。カードが60枚終わる
ころには質問に合った返事をするようになり、視線もずいぶん合うようになっていました。そして、
独り言もありません。

黙ってその様子を見ておられたお母さんが口を開きました。「ずっと独り言が続いて困っていました。
やめなさいと言っても全く効き目が無くて・・・、先生の前だとこんなに落ち着けるのですね。」

「家や学校で何もしない時間が増えていないですか?この子は高い能力とエネルギーを持っている
のにすることがはっきりしていないと自分ではどうしたらよいのかわからなくなるのですよ。」と
いうとお母さんは「そうですね。家に帰っても何をするでもなく部屋の中でくるくる回ったり、
独り言を言ったり、思わずうるさいよと言ってしまいます。」と最近の様子を話してくれました。

お母さんと相談しながら、可能なお手伝いやちょっとした作業の計画表を作ってみました。これを
時間に添ってできるようになるまでお母さんに声掛けしてもらうようにしました。
R君は字が読めるので慣れると自分で計画表を見ながら作業ができるようになると思うのです。

お母さんが訴えるように話し出されました。「学校の先生から、最近は落ち着かないので児童精神
科を受診して薬を飲むようにしてはどうかと言われています。先生、必要だと思いますか?」

医師ではない私が投薬に関する質問にお答えするわけにはいかないので、ここからは診察室に入り、
院長と話しました。院長は、R君と簡単な会話を交わし(上手くかみ合いました)お母さんに説明
してくれました。「自傷他害はない、衝動性もない、情緒的な不安定さもない、睡眠障害もない、
ただすることが無くてどうしたらよいかわからないで困っている人に出せる薬は無いですよ。」

診察室を出て、私はお母さんに「まず、やれることをやってみて、そしてだめだったらまた考え
ましょう。」と言いました。お母さんは「また困ったら先生に相談していいのですね。」とすがる
ように言われました。私は(落ち着くまで定期的に訓練しましょうか?)と言いたい気持ちを
ぐっと抑えて、「いつでも電話してください。」と答えました。
これが今の訓練室の混雑ぶりを考えると精一杯の結論でした。

それにしても最近は学校の先生から投薬を勧められる子どもがあまりにも多いような気がします。
平成19年4月、「特別支援教育」が学校教育法に位置づけられ、学校の中でも発達障害について
研修が盛んに行われるようになりました。そして先生方も発達障害に処方される薬について知る
ところとなったわけですが、問題行動を解決するには『薬』と思われている先生も中にはおられる
ようです。薬を使わなくても改善できるところはいくらでもあることも知ってもらいたいと思います。


最近の療育事情(どこも混雑しています)

kage

2013/03/17 (Sun)

年度末を迎え何かと忙しく、ブログの更新も遅れがちなrainwomanです。
何度も訪問してくださっている方々、申し訳ないです。

忙しいというよりも気持ちが落ち着かないというのが本当の所かも知れません。

私の所は3人の言語聴覚士がいます。毎日30人ほどの患者さんをせっせと診ていますが予約待ちが
6か月以上となっており、希望者の多い遅い時間帯や土曜日が空くのを待っておられる方は
どうかすると一年ほどお待たせしている状態です。

幼い子どもの半年とか一年というのはとても大きな意味合いを持っています。
何とか一人でも多くの方をと思い、午後の時間帯や土曜日は一分の隙間も入れずに治療をしているの
ですがこんな現状です。

本当はこの時間は都合が悪いけれども少しでも早く治療を始めたいと思われて、無理を押して
(学校を休ませたり、職場で肩身の狭い思いをしてシフトを組んでもらったり)来院されておられる
方もあるので、年に1回は大幅なスケジュールの変更をしています。

構音(発音)の治療に来られている方はよくなれば終了ですが自閉症の子どもさんなど、
どこをゴールとするのか判断が難しい方もいます。一応コミュニケーションの手段が確立できて、
自傷他害が無く落ち着いている子どもさんは訓練終了、経過観察としますが、それも中学生位で
終了せざるを得ません。

そうやって少しゆとりを作ったところで治療中の方のアンケートを基に新スケジュールを入れて
いきます。出来上がろうとするときに『やっぱりこの曜日の方が』などと言われる方が必ず何人か
出てきます。そしたらまた一からやり直し、3人の治療者の力量の違いや子どもとの相性などもあり、
すべての方の希望をかなえていくというのはなかなか困難を極める作業です。

この時期は毎年睡眠時間がずいぶんと減ります(その割には体重は減っていませんが・・・)

でも私がストレスに感じるのは作業の大変さではありません。長くお待たせしている子どもさん達の
ことを考えたり、無理にでも終了にもっていかなくてはいけない子どもさん達のことを考える時です。
年々申込者が増え、そして無理に終了しなくてはならない子の数も増えていきます。

子どもの療育やリハビリにあたっている施設はどこも満杯状態のようです。
その中でこんな子どもさんは(治療効果が無いから)診ませんとか小学校入学後は対象外です
という施設が多々あります。

また、自治体の予算の問題や医療費削減などの潮流の中で小児の療育やリハビリをする施設が
増えていかない現状があります。

私の所も年齢や病名、重症度で受け入れの基準を決めると少し楽なのかも知れません。
しかし、治療すべき症状があって患者が望んでいたら受け入れるというのが医療の基本理念です。
治療拒否は医療倫理に反するのです。

私のクリニックの院長はお困りの方を門前払いしない、少しでも前進するお手伝いをするという
方針です。私もコミュニケーションでお困りの方がいたらお力添えしたいと思って、予約申し込みを
された方には必ずお会いして治療できるところできないところを判断しご家族に説明しています。

だから私の所には地域からの小さい子どもさんはもちろん、遠方の方で、方々の施設で治療を
断られた重度障害の子どもさんや問題行動が深刻な小学生以上の方もたくさん来られるのです。
そして他で断られている方でも治療をすれば治療効果はでるのです。

この春からは新卒の言語聴覚士を1名増員することになりました。彼女が早く子どもたちのために
しっかりと戦力になるように育ってくれたらなと願っています。





犬の心(喜怒哀楽)

kage

2013/03/08 (Fri)

前回までは連続5話の長~い記事、お付き合いくださった方々、ありがとうございました。
約ひと月かけても自分が言いたかったことは言い尽くせず(涙)、やっぱり準備にもうちょっと
時間を割いて、話を整理してから書き始めないといけないですね。
毎日更新している人たちはすごいな~。毎日書かれていても一つ一つが輝いて見えます。

さて、お口直しに、今日は犬の話をしてみたいと思います。
私が犬を飼っていて、一昨年秋にその犬が逝ってしまったことをちょっと前に書きました。
(愛犬との思い出 ) (愛犬との別れ・・・それは家族との別れ・・・ )
黒いラブラドールでしたが、黒いものというのはなかなか写真に撮りづらく、私たちは彼女の写真を
あまり持ちません。そこでちょこちょこ、ペットのカテゴリーのブログに訪問させてもらっては、
ああ、うちでもこんなことがあったなあとか、こんな表情していたよねなんて懐かしんでいます。

そして、そのブロガーさん達も私を訪問してくださって、文字しかない退屈なブログを見てもらって
います。せめてものお礼にたまには犬の話を書きたいと思います。もちろん、子育てにも絡めて・・・

私は犬を飼い始めたときに、きっと犬には私たちには無い能力がいろいろあるのだろうなと期待して
いました。ところがうちの犬は運動能力がいまいち、鼻もさほど利きません。
しかし、なんと人間と同じような力を持っていることに大きな驚きを覚えました。

それは、群れを保つための能力、つまり社会性がとても発達しているということです。
自分とは違う種の《人間》と仲良くできるのですから当たり前と言えば当たり前ですが、その能力は
私の想像をはるかに超えていました。

まず、犬も私たちと同じように相手とのかかわりの中で喜怒哀楽の感情を抱きます。

以前、犬についての雑誌を読んでいたら、犬には表情筋が無いから笑わないと書いてありました。
とんでもない!小さいけれど表情筋もあるし、笑うし。。

犬を横から見たときに口が三角( > )に開いていたら笑っているときです。もちろん尻尾も揺れて
いますよ。その時に声は出しません。[ワァッハッハー]みたいな大笑いは無いけれど[フフッ]や
[へへへ]みたいな笑いかたをしているようです。

犬が笑いながらご主人様の方を見上げて散歩しているのを見かけると、私は可愛がられている幸せな
犬だなと思っています。[オトウサン、タノシイデスゥ 、^^]といっているような・・・。
そして最近はそんな犬が増えていると思います。犬を番犬としてだけではなくペットとして、
あるいは家族の一員として飼う人が増えているからかなーと勝手に解釈しています。

犬も泣きます。うちの犬は、いたずらをして叱られたとき、それを食べてみたいなどの要求が
通らないときなど、お座りをして目に涙をいっぱいためていました。時には涙で目の下が
グシャグシャに濡れていたりしました。

そして手が離せないことがあっていつもの時間にご飯が用意できないでいると、そばに来て目を
むき出して鼻から[フン]と息を吹きだして怒っていました。

ここで注目していただきたいのは単に喜怒哀楽があるというのではなく、相手との相互関係の中で
喜怒哀楽があるということです。


そして相手の喜怒哀楽も感じ取る能力もあります。つまり空気が読めるわけです。

家族が和やかに団らんしているときは犬も笑顔で参加しています。ところがいくらことばは
穏やかでもその中にとげがあると尻尾を下げて、おずおずとケージの中に入っていきました。
そのとげは自分に向けられたのではなくても・・・。その後姿を見て私たちはまた、
和やかな空気を取り戻し「犬ちゃん、出ておいで。もう大丈夫だよ」と声を掛けていました。

我が家の愛犬が逝って1年と4か月が経とうとしています。さすがに涙も枯れ果て、家にいる時でも
犬のことをすっかり忘れて生活をしている時間が長くなってきました。

そして、私はふと気が付いたんです。私たち夫婦、ずいぶんととげのある言葉を投げつけ合っている
なと・・・(ハイ、私の方が多いです。。)

「また、犬を飼いたいな~。」という私に夫の返事は「もう犬は飼わないよ。犬ちゃんと約束
したんだから・・・」でした。(ハイハイ、あなたは『犬ちゃん命』でした。)

(私も他の犬を飼いたいとは思っていないけれど、そう言ってみたくなっただけで~す。)



信頼関係を築くということ ・ 5

kage

2013/03/01 (Fri)

2月3日から連続の5話目です。今日こそ終結しようと思っています。

T君は、1か月の無断欠席の後、また落ち着かなくなって治療室に戻ってきました。知的な遅れと
多動性を持ったT君、年長になりずいぶんとよくなったとはいえ、教育委員会での『就学相談』を
お母さんに繰り返しお勧めしていました。そのことがお母さんを追い詰める結果となっていたようです。

お母さんは飲酒をしては「アンタのせいで文句ばかり言われる」とT君に当たり、お父さんと二人の
子どもたちは二階に避難しては子どもにはふさわしくないテレビや、お父さんがするゲームをずっと
見ていたようです。(テレビ・ビデオの実害)

就学相談を受ける気が無いのならなおさらのこと、落ち着いた生活を取り戻して学力の基礎となる
力を伸ばしましょうという話をしようとしたときにお母さんは爆発、「うちの子を普通じゃないと
いわないでください。」と大声で叫ばれ治療をやめたいとまでおっしゃいました。

とりあえずご両親との面談を予定に入れ、私は連日遅くまで診療録を読み返しながら、どうやったら
ご両親に治療の必要性や落ち着いた生活をすることの大切さを理解してもらえるかあれこれ考え
ました。でも、人との駆け引きで小技を使うなど似合わない私です。、正直に正面から向き合うこと
しかできないと思いました。そして、これまでの経過をわかりやすいようにチャートにまとめました。

面談の日は予定通り、ご両親揃って来院されました。
お二人に座っていただき、私はまず、お詫びすることから始めました。

お母さんが、ご自分の親のことまで悪く言われたと思い込まれている点についてです。
「私は、お母さんの親御さんの育て方が悪いなどとは一回も言っていません。世の中の一般論として
『子どもは生まれ持った素質と環境の影響を受けて育ちます。素質を変えることはできないから良い
環境を作ってやるということが大切です。』と繰り返し説明しました。その例として『お母さんも私
も両親の遺伝子をもらって、与えられた環境の中で育って今の自分達がある。』と話したのですよ。」
はっとした表情のお母さんが謝られようとするのを止めて続けました。

「でも、私はお母さんのT君に対する否定的な言葉や生活習慣の乱れに腹を立てていました。
T君をかばいたい気持ちから、あなただって理想的に育ったわけではないでしょうという意地悪な
気持ちが湧いてきたのは事実です。だからお母さんにはそう聞こえ、傷つけてしまう結果になった
のだと思います。申し訳ありませんでした。」それを聞いてお母さんは頭を横に振られました。

次は、「普通の子ではないといわないで」とお母さんが一番、立腹されている件についてです。
でもこのことについては私は謝りませんでした。普通とか普通でないとか好きな言葉ではないけれど
ご両親に分りやすいようにその言葉を使いました。

「私はT君はほとんどのことで普通だと思っています。でも、お困りのことがあって来院された。
治療するべき点があるのならその点は普通とは言わないと思います。T君には治療すべき症状があり
生活上でも考慮しなければならない特性があります。だからこのことについては謝りません。
でも、将来、仕事をして自分で食べていくことができると信じています。
そのことをお母さんが『普通』というのなら、そうなるように今頑張るときなのです。」

それから診療録をまとめたチャートをお見せして、これまでの治療の進み、T君の変化の様子、
私の考え、お母さんの気持ち、そして二人の気持ちのすれ違いを時間の流れとともに確認し、
T君が治療によく反応したり、ちょっと生活が変わると大きく影響を受けている様子を
あらためて見てもらいました。

それまで黙って聞いていたお父さんが口を開きました。お母さんよりもずいぶんお若く、茶髪で
やんちゃな印象のお父さんです。

「ここに来るようになって、妻がずいぶん努力するようになったのに、自分がそれを邪魔して
いました。すぐ怒鳴るし、ゲームもしたくなるし・・・これからは自分が治療についてきて先生の
説明を聞きながら勉強していった方が良いと思います。」

お母さんはびっくりしたような目をお父さんに向けられ、目が涙で光っているように見えました。
(お母さん、お父さんと私の板挟みになっていたことも苦しかったんだね・・・)

次回からはお父さんとお母さんが交互に治療に付き添われました。T君はみるみる落ち着きを
取り戻し、落ち着いているので私が教えることをスポンジが水を吸うように吸収していきました。

秋になり、以前にも増して落ち着いたので治療を1か月あけてみました。全く問題なし。
私が教えていないこともいろいろ理解するようになっていて、折り紙も自力で折れるようになって
いました。そして、幼い話し方とはいえ、会話が何の違和感もなくかみ合います。

また1か月あけてみました。2か月ぶりに見たお父さんはすっかりお父さんらしく優しい表情を
されていました。

「お父さん教えてと言ってくるので今は二階で折り紙やパズルをしています。文字にも興味を持って
聞いてきます。この子がこんなに静かに時間を過ごすのが好きだなんて知らなくて・・・
それからランドセルも買ったのですが、箱から出すこともせず、大事そうに箱を眺めています。
小学校に行くまでは出さないそうです。怒鳴る必要がなくなりました。」

その日は時間に余裕があったので気になっていた知能検査をしてみました。治療開始前は中等度の
知的な遅れがあると診断されていましたが、今回1年4か月後にIQ=89、なんと正常の範囲です。
最近の伸びは目を見張るものがあったし、落ち着いて取り組めたのもよかったのでしょう。
お父さんに結果を説明し、2か月後に問題なければ治療を終了することをお伝えしました。

最終回はお母さんと来院しました。T君は落ち着いてニコニコしています。あれほど治療日を
楽しみにしていたT君ですが終了を告げるとあっさり「わかった。」と納得しました。
ずいぶんと自信がついたのでしょう。

入学後、一度、経過観察をすることと、学校で落ち着かなくなってしまっていたら、就学相談の
ことももう一度考えなくてはならないことをお母さんに告げました。お母さんは大きく頷きながら、
「なんか先生にずいぶん失礼なことを・・・」と言いかけてことばを詰まらせました。
「私こそ、必要以上にお母さんを苦しめてしまって・・・」

お母さんは「先生のおかげで、こんなに落ち着いて・・・」と言ってさらに言葉を詰まらせました。
「いえいえ、お父さん、お母さんが努力されたからT君はこんなに成長したのですよ。本当に
頑張られましたね。」

お礼を言われたくて仕事をしているわけではないのですが、自分がやってきたことは間違いでは
なかったという安堵感が私を包み込みました。

クリニックの出口でお別れをすると、お母さんは何度も振り返り、私に頭を下げられました。
T君は手を振っていました。始めのころはT君が良くなることだけを考えていましたが、
今はご家族の和やかな幸せが続くことを祈りながら、二人を見送りました。


完結です。長い話にお付き合いいただきありがとうございました。