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『なりたい自分になる』ということ・2

kage

2016/09/20 (Tue)

前回からの続きです。

軽い脳性麻痺で、発音の不明瞭さを主訴に来院したK君は、強い多動・衝動性と
注意集中力の障害を持つAD/HD(注意欠陥多動性障害)の子どもさんでした。

幼い時からのテレビ視聴で現実・非現実の区別がつかず、いつも自分は警官気分。
保育園で何かトラブルがあると思うと犯人に違いないと思う子に襲い掛かりました。

そんなK君を担当することになってまだ方針が定まらないうちにその日はやってきました。

K君、大声を上げながらクリニックに飛び込んで来たかと思ったら、
あっという間に訓練室に走りこんで、そこら中のものを片っ端から投げ始めました。

どうしたのと声をかけるとさらに興奮し、ズボンを下ろして放尿を始めました。
そして部屋の隅に寝転がり大きな声で泣き続けました。

私は黙って雑巾で床を拭きながら、
後ろから入室してこられたお母さんが事情を話されるのに耳を傾けました。。

今日は泣いているモモちゃんを助けようとして隣にいたユウ君を突き飛ばし、
けがをさせてしまったということです。

モモちゃんは自分で作った粘土の人形を落として泣いていて、
ユウ君はそれを慰めていたところだったということ・・・


その日のことで、私はK君自身が深く傷ついていることに気が付きました。

人に良かれと思ってしたことが裏目にでてしまう。
叱られてしまう。
嫌われてしまう。

保育園の先生からもお母さんからも何度も何度も叱られ続けたことで彼の障害は
AD/HDという範疇を超え、反抗挑戦性障害というものに変わりつつありました。

はじめは正義の味方のつもりだったのに、度重なる失敗で
『どうせ僕は叱られる人間だ』という意識が芽生え始めていたのです。

そして、今日の出来事をお母さんが rainwoman先生に告げるに違いない、
先生も僕のことを責めるかもしれない・・・
先生も僕のことを悪い人間だと思うかもしれない・・・

不安で押しつぶされそうになって・・・そして暴れたのでしょう。
『なりたい自分』はこんな姿ではないのに・・・・


この日の診療を終えた後、私は随分長いことK君への対応の仕方を考えていました。

勘違いするなといってもワザとに勘違いしているわけではないし、
暴力はいけないといっても、K君、そんなことぐらい、とっくに知っているよね。
物は投げないほうがいいことも部屋でおしっこしたらいけないことも全部知っている。

でもそうなってしまって、叱られたり、嫌われたりすることに怯えている、


そうだ!『絶対に叱らないぞ作戦』で行こう!と私は決心しました。


お母さんには、訓練とは別の日に一人で来ていただき、今までのカルテの記載では
不十分な点をお聞きしたりしながら、少しお願いもしてみました。

 「メディア視聴が長い子はことばの発達が遅れたり落ち着かなくなるのです。
  テレビの時間を短くできませんか?見ている番組も子どもさんには不向きな内容ですよね。」

するとお母さんからまさかの反応。
 
 「私がそんなの(刑事ものなど)が好きなんです。それにテレビがついていないと
  自分が落ち着かなくて絶対に無理です。」

(ソッカ~)

私はタイミングを見て次のお願いをしてみました。

 「ヘエ~ッ、K君、トミカが好きなんですね。一人で遊んでくれて助かるでしょう。
  でも、たまにお母さんが一緒に遊んでやると優しい気持ちが出てきますよ。
  お友達と遊ぶのも上手になると思うし・・・」

それに対するお母さんの返事は、

 「いや~っ、トミカですか?私、トミカには興味ないんですよね。」

このお母さんには少し無理なお願いでした。

K君、君もお母さんが足りていなかったんだね。
だから、ここまで不安定な気分になるんだ・・・・

こうなったら私がいっぱい、いっぱい、一緒に遊んであげるしかありません。


『絶対に叱らないぞ作戦』に加えて『一緒に遊ぶと楽しいぞ作戦』     開  始 !

そして、警察官ではなくて、トミカ好きでもなくて、もちろん暴れる姿でもなくて、
K君の『本当になりたい自分の姿』を探り当てるタイミングを待つことにしました。

                                ・・・つづく・・・


『なりたい自分になる』ということ

kage

2016/09/08 (Thu)

乳がんであることを公表されていた小林麻央さんがブログを立ち上げ、
病気の陰に隠れるのではなく、『なりたい自分になる』と宣言されました。
多くの人の感動と共感を呼んでいます。

『なりたい自分』というのは本当の自分、
『なりたい自分になる』というのは本当の自分の心に素直に生きていくということ。

日常の煩雑の中、ついつい目先の衝動や、欲求、しがらみに左右され、

忘れてしまっていたり、
忘れてはいないけれど、前に進めないもどかしさの中にいたり、

そんなもやもやを払いのけてくれるような、
麻央さんの力強いことばに私も勇気づけられました。



オリンピックやパラリンピックで活躍するようなアスリートたちも
『なりたい自分』の姿を思い描き、つらい練習も歯を食いしばりながら耐え、
あるいはどん欲に挑み、


それから、私のような名もなき人間も自分らしく生きたいと考え、
日々の営みを紡いでいます。



ところで、ブログを休みがちな日々の中で少し書き留めておいたテーマの中に
『なりたい自分となれない自分』というのがありました。


その中で紹介しようと思っていたK君の話です。

『なりたい自分』と今の自分のギャップに苦しんでいた子どもさんです。
というよりも、『なりたい自分』の姿さえもはっきりしていなかったのかもしれません。



K君は軽度の脳性麻痺でことばがはっきりしないという主訴で4歳のころから通院しています。



ウッウ~ン、私の臨床経験の中でも3本の指に入るほど大変な子どもさんでした。


刑事もののドラマや、警察への密着取材をしたような番組が大好きで(お母さんが?)
赤ちゃんの頃からずっと見ているので、自分も警官になったような気分、

保育園で誰かが泣き出したら即座に駆け付け、
周りの子がやったに違いないと勝手に思い込み、

パンチやキック、時には手に持っていたハサミや給食の先割れスプ~ンを
泣かせた犯人に違いないと思う子どもに向け、けがをさせることもしばしばでした。


保育士から止められたり、とがめられたりするともうパニック、悪言をわめき散らし
誰彼と関係なく攻撃を加えました。


そんなことがあった日にことばの訓練が重なると、


大声を上ゲながら訓練室に走りこみ、同時に、そこらのものを投げ散らかし、
止められれば、担当を蹴ったり噛みついたり、
床にころがって泣き叫んだり、と訓練どころではありません。


歴代の担当が手を焼き、年長になるときに
「体も大きくなってきてもう無理です。」と頼まれて、私が担当することになりました。



私は言語聴覚士ですから、ことばの訓練をしたのは確かですが、
それ以上に彼の『なりたい自分探し』に時間と労力を使いました。


最近はなりたい自分になろうとし始めたK 君です。
どのように成長していったか続きを読んでください。



                          (つづく)