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リュウくんのこと ( 3 回目 )

kage

2018/04/24 (Tue)

重度の知的障害を伴う自閉症スペクトラム障害と診断されたリュウくんの話の続きです。

知らない人への極端な恐怖心を持っているリュウくんに私は無理に近づこうとはせず、
テレビのごとく、彼の前で勝手に話し、動き、
そして私の存在に警戒心が薄れたところで、物のやり取りの訓練を開始しました。

相手から物をもらう意識が育っていないのに相手の気持ちを受け取ったり、自分の気持ちを
相手に差し出したりはできないからです。

私が持っているものを勝手に取ろうとするリュウくんに私はすぐには渡さず、掌を上にしたら
(それが欲しいというサインを出したら)渡すことから始め、
次に欲しがっているものをわたしの顔の前に持ち上げ、それを見たら掌の上に渡す、
次に、物は上に上げていなくても私の目を見たら、渡す、というように進めていきました。

相手の顔を見て気持ちを表現し、それが伝わると思いが実現することを体験してもらいました。

また、勝手に立とうとするときは肩をそっと抑えて制止し、「どうぞ」と言ってから立たせました。


比較的に早く、私の指差すところを見ることができたので
今度はリュウくん自身が指差すということを教えました。

指差しは多くの自治体の乳幼児健診のチェック項目に入っています。
コミュニケーション発達の指標となる重要な動作だからです。

人は眼前にある自分の関心事を人に伝えようとするときこれを見てというように指をさします。
例えばお母さんが赤ちゃんに「ワンワンよ」と言いながら犬を指差し、見せようとしたり、
また話し始めた赤ちゃんが「ワンワン」と言って犬がいることをお母さんに教えようとします。

指差しをつかさどる運動野下部という脳の部位は言語野と呼ばれる部位のすぐそばに
位置しています。ことばの発信と指差しはこのようにとても密接な関係にあるのです。

私はリュウくんの右手で握りこぶしを作らせ、人差し指を立てさせて、私の左手で保持し、
開いた絵本の上に持っていきました。

私は「りんご」といいながら、右手でりんごの絵を指差し、同時にリュウくんの人差し指でも
りんごの絵を指差させました。
同じように「いちご」「みかん」と言いながらリュウくんの指先もそこに運びました。

意外とリュウくんは抵抗することなく私のなすがままで、数分間、この練習は続きました。

帰り際、いつものようにお母さんにアドバイスをします。
「お母さんは真似しないでくださいね。」

お母さんの目にみるみる涙が溢れました。
「先生と同じように絵を指差して『リ・ン・ゴ』って言って、リュウが声を出すのを
待っていました。」

「ごめんね、お母さん。
お母さんが言葉を教えようとするとリュウくんはますますしゃべらなくなってしまいます。
りんご食べる?とか、絵本を見ているときはここにりんごがあるねとか自然に話しかけてください。
くれぐれも教えようとか、しゃべらせようとかしないでください。」

次の週、ミニカーやパズルで一通り遊んだ後、
「リュウくん、次は何をしようか?好きなの持ってきていいよ。」
と言ってリュウくんを席から立たせるとなんとリュウくん、先週使った絵本を持ってきました。
「りんご」、「いちご」、「みかん」私は、リュウくんの右手を支えている自分の左手を
そっと放してみました。何とリュウくんは、人差し指を立てたままで、指差しを続けました。

おまけに指差しながら何かもやもや声を出しています。

初めての来院の日の泣き声以来、リュウくんの声を聞くことができました。
(お母さん、練習やめてくれたのですね・・・ありがとう。。。。)

そして数週間後、動物の絵本で指差しの練習をしているとき、私が「しまうま」というと
リュウくんも[マンマー]と真似して、しまうまを指差しました。(いったよ~!)

お母さんは、すかさず「リュウ、すごい、しまうま、いえたね~」と大喜び。
さすがに私はそこで水を差すようなことは言えませんでしたが、また帰り際、

「お母さん、これから少しずつことばが出てくると思いますが、もっと上手に言わせようとしたり、
褒めたりしてはいけません。褒めると声を出そうとするときに力んだり、恥ずかしい気持ちに
なったりしますから、自然に、ほんとだ、しまうまがいるね、くらいにしておきましょう。」

いつもいつもお母さんがしていることにケチをつけてしまう私です。
でもお母さんはそれも全部飲み込んでくれました。


どうしてテレビはいけないのか、
どうしてことばは教えてはいけないのか、
どうしてことばを発したことを褒めてはいけないのか、

お母さんを困らせてばかりいる rainwoman ですが、
その説明はまた後日ゆっくりするとしてもう少し、リュウくんの話を続けさせてください。



                                               ― 続  く ー




リュウくんのこと(前回からの続き)

kage

2018/04/03 (Tue)

リュウくんの第一回目の訓練日はリュウくんはお母さんのお膝の上、
警戒心の強い彼と私は目を合わさないようにしてお母さんに問診をしました。

さあ、どんな作戦で彼と仲良くなっていくか・・・

以前の私は重度自閉症の子どもさんが来られると、まずは家具のように存在しようと心に
決めていました。人に対する親和性の薄い子にいきなり近づいたり(いくら姿勢を低くして
いても)、話しかけたり(いくら優しい声でも)しても、すぐにすり抜けられてしまうのです。

だから、私は人ではなく、物として慣れてもらうことから始めていました。

しかしながら、リュウくんは対人的な親和性が薄いというよりむしろ、
対人的な恐怖を持っています。
初回お会いした時に比べ、私の方に随分と視線を送ってくれるようになってはいるのですが。

「私、テレビになってみようかな・・・」

さて、一週間後、やっぱり、リュウくんはお母さんの膝の上、
私は子ども用の机の前に座り、ミニカーを持って「ブッブー」と言いながら動かし始めました。

リュウくんは車に視線を送っています。私は周辺視野で彼の様子を確認します。
人には慣れていないけれど、自分のことを見たり話しかけたりしないテレビには
随分慣れていたわけだし・・・

「リュウくんも遊んできなよ。」とお母さん。
その一言でリュウくん、お母さんにしがみついてしまいました。

私は、リュウくんにもお母さんにも視線を向けないままで、
「お母さんは声を出さないでくださーい。」

「オッと、赤信号だ。キッキー(ブレーキ音のつもり)。」
「あっ、青になった。しゅっぱーつ!」

しばらく続けているうちにリュウくんんはお母さんの膝から降りてこちらを見ています。

「次は、電車にしようかな」
「ガタン ゴトン ガタン ゴトン」

リュウくんは段々私のそばに寄ってきました。そして何も言わず、勝手に私の電車を取って
机の上で走らせました。
私は「ガタン ゴトン ガタン ゴトン」と電車の音を演出しました。

(人との物の受け渡しの意識はまだない・・・)

こうして訓練時間が過ぎ、帰り際にお母さんが言われました。

「リュウが家族以外の人に近づいていくのを初めてみました。ビックリです。」

「私、今日は人ではなかったですから (笑) 」
「えっ?」
「今日は話しかけもしなかったし、視線も向けませんでした。リュウくんが警戒しないようにね。」


次の訓練日にはリュウくんはすんなり近づいて来て私が持っている電車をとろうとしました。

私は電車をギュッと握って離しません。
リュウくんは私に視線を向けることなく、何とかそれをもぎ取ろうとしました。

「電車がいるんだね。」そう言ってリュウくんの掌を上に向けその上に電車を載せました。
物の受け渡しを人としているという意識が無い段階で、ことばのやり取りができるわけが
ありません。やり取りの練習の始まりです。

今日は、乗り物の型はめパズルを出してみました。
電車のピースをこれ要る?と訊きながらリュウくんの掌を上に向け載せました。

リュウくんはそれも走らせようとするので、
「ガタン ゴトン ガタン ゴトン、駅はここでーす。ここに入れてください。」
とピースがはまるくぼみを指差し、そこに導いていきました。

「バスはここに留まりますよー。ブッブー」指差している場所にバスを導いていきます。
「飛行機はここに着陸してください。ビューウン」

何とリュウくん私の指差すところをしっかり見ているではありませんか。

帰りのお母さん、「こんなに集中して遊べるのですね。」

「私の指先を見てくれました。お母さん、テレビを消していてくれたおかげです。
 自閉症の子どもさんはなかなか人の指先を見ることはできないのですよ。」



                               ― 続  く ー